『障害者対策に関する新長期計画』
『障害者対策に関する新長期計画』――全員参加の社会づくりをめざして――
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はじめに |
第1 |
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基本的考え方 |
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1 |
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障害者の主体性、自立性の確立 |
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2 |
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全ての人の参加による全ての人のための平等な社会づくり |
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3 |
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障害の重度化・重複化及び障害者の高齢化への対応 |
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4 |
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施策の連携 |
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「アジア太平洋障害者の十年」への対応 |
第2 |
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分野別施策の基本的方向と具体的方策 |
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1 |
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啓発広報 |
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1) |
啓発広報の推進 |
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2) |
福祉教育の推進 |
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3) |
ボランティア活動の推進 |
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2 |
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教育・育成 |
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1) |
心身障害児に対する教育施策の充実 |
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2) |
心身障害児に対する育成施策の充実 |
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3 |
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雇用・就業 |
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1) |
障害種類別対策の推進 |
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2) |
重度障害者対策の推進 |
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3) |
職業リハビリテーション対策の推進 |
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4 |
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保健・医療 |
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1) |
心身障害の発生予防、早期発見及び研究の推進 |
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2) |
医療・リハビリテーション医療の充実 |
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3) |
精神保健対策の推進 |
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4) |
専門従事者の確保 |
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5 |
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福祉 |
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1) |
生活安定のための施策の充実 |
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2) |
福祉サービスの充実 |
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3) |
福祉機器の研究開発・普及 |
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生活環境 |
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1) |
建築物の構造の改善 |
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2) |
住宅整備の推進 |
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3) |
移動・交通対策の推進 |
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4) |
情報提供の充実 |
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5) |
防犯・防災対策の推進 |
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スポーツ、レクリエーション及び文化 |
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国際協力 |
第3 |
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推進体制等 |
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平成5年3月/障害者対策推進本部(本部長:内閣総理大臣)
国際連合は、1982年、国際障害者年(1981年)の「完全参加と平等」の趣旨をより具体的なものとするため、「障害者に関する世界行動計画」を採択するとともに、この計画の実施を図るため、1983年から1992年までの10年間を「国連・障害者の十年」と宣言し、各国において、行動計画を策定し、障害者の福祉を増進するよう提唱した。
一方、政府は、国際障害者年推進本部(昭和55年3月設置)において、昭和57年3月「障害者対策に関する長期計画」を決定し、さらに、障害者対策推進本部(昭和57年4月設置)において、昭和62年6月「『障害者対策に関する長期計画』後期重点施策」を決定し、障害者対策の総合的かつ効果的な推進に努めてきたところである。なお、障害者対策推進本部は、平成3年8月、「国連・障害者の十年」最終年を迎えるに際して、「『障害者対策に関する長期計画』及びその後期重点施策の推進について」の決定を行った。この10年における計画の実施状況をみると、各分野において着実な施策の進展が図られてきた。
「国連・障害者の十年」は昨年末に終了したところであるが、昨年4月、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第48回総会において「アジア太平洋障害者の十年」(1993年〜2002年)の決議が採択される等、国際的に新たな動きがみられる。
中央心身障害者対策協議会においては、昨年2月以降、「国連・障害者の十年」終了後の長期的な障害者対策の在り方について検討を行うため、企画調整、教育・育成、雇用・就業、生活環境、保健・医療・福祉等の5部会を設け、検討を続けてきた。この結果、同協議会は、本年1月21日、「『国連・障害者の十年』以降の障害者対策の在り方について」をとりまとめ、内閣総理大臣に意見書を提出した。
政府は、この意見書を踏まえ、次のとおり、新たに長期的視点に立った障害者対策に関する計画(以下「新長期計画」という。)を策定し、「国連・障害者の十年」終了後も障害者対策をなお一層推進するものとする。
我が国の障害者対策は、ライフステージの全ての段階において全人間的復権を目指す「リハビリテーション」の理念と、障害者が障害を持たない者と同等に生活し、活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念の下、障害者対策に関する長期計画等に基づき、「完全参加と平等」の目標に向けて推進されてきた。新長期計画においては、その理念及び目標を受け継ぎながら、これまでの成果を発展させ、新たな時代のニーズにも対応できるよう配慮する。また、新長期計画の推進に当たっては、単に「啓発」を行うだけでなく、それが「行動」に結びつくよう配慮するとともに、実施状況を適宜点検し、計画の着実な実施を図る。
新長期計画は、次のような基本的考え方に基づき、平成5年度からおよそ10年間にわたる施策の基本的方向と具体的方策を明らかにするものとする。
1 障害者の主体性、自立性の確立
基本的人権を持つ一人の人間として、障害者自身が主体性、自立性を確保し、 社会活動へ積極的に参加していくことを期待するとともに、その能力が十分発 揮できるような施策の推進に努める。
2 全ての人の参加による全ての人のための平等な社会づくり
1) 障害者を取り巻く社会環境においては、交通機関、建築物等における物 理的な障壁、資格制限等による制度的な障壁、点字や手話サービスの欠如等による文化・情報面の障壁、障害者を庇護されるべき存在としてとらえる等の意識上の障壁がある。これらの障壁を除去し、特に街づくり等を含む生活環境の改善や技術の進歩に応じた福祉機器の研究開発、普及を図ること等により、障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりをめ ざす。なお、種々の障壁を除去し、障害者の社会参加や生きがいづくりを進めることは、「生活大国5か年計画」(平成4年6月30日閣議決定)の柱となっているところである。
2) 障害者が住みよい、障害者のための社会をつくっていくことは、全ての人が住みよい、全ての人のための社会をつくっていくことにほかならない。このような観点から、平等な社会づくりに際しては、障害者を対象とした特別の措置を講ずるだけでなく、障害者の参加や利便を前提にした一般的な措置を講ずるよう努める。
3) 平等な社会づくりに際しては、行政はもちろん、社会の全ての構成員、特に一般市民が障害者問題を理解し、主体的に取り組んでいく必要がある。このような全員参加による取組を進めていくため、地域住民、企業等に対する啓発広報の充実により一層努める。
3 障害の重度化・重複化及び障害者の高齢化への対応
1) 障害が重かったり、重複している等のため、常時援護や保護を受けている障害者の割合は、増加する傾向にある。これらの者が基本的人権を持つ一人の人間として生活ができるよう、その生活の質の向上に努める。
2) 人口構造の高齢化に伴い障害者の高齢化が進んできており、また、高齢者の中にも障害のある者が多くなっている。このような状況に即応した施策の展開に努める。
4 施策の連携
1) 障害者対策と高齢者対策は、在宅福祉サービスの提供等の分野において、重複することも多いので、障害者及び高齢者双方のニーズに応えていくために適切と認められる場合には、その施策の一体的な推進に努める。
2) 障害者対策は、福祉、保健医療、教育、雇用、生活環境等幅広い分野にわたるため、関連施策の連携を図るよう努める。
5 「アジア太平洋障害者の十年」への対応
国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第48回総会における「アジア太平洋障害者の十年」の決議採択に際しては、我が国が共同提案国となっている経緯もあり、特にアジア太平洋地域に対して、これまで我が国が培ってきた経験、技術等を適切に提供し、交流を図ることにより、これらの地域における障害者問題に係る国際協力において主導的な役割を果たすよう努める。
障害者を含む全ての人々にとって住みよい平等な社会づくりを進めていくためには、国や地方公共団体が障害者に対する各種施策を実施していくだけでな社会を構成する全ての人々が障害及び障害者に対して十分な理解をし、配慮していくことが必要である。このため、啓発広報は極めて重要である。啓発広報を進めるに当たっては、次の点に留意する。
ア 障害者は、障害のない人と違った特別の存在ではなく、障害のない人と同じ社会の構成員であること。
イ 障害者は、一人の人間として基本的人権を有しており、障害による差別・偏見を受ける理由がないこと。
ウ 障害者も大きな可能性を有していること。
エ 障害者の問題は、全ての人々自身の問題であること。
1) 啓発広報の推進
1 テレビ、新聞等のマスメディアによる啓発広報は、大変効果的であり、一層の推進を図る必要がある。このため、マスメディア各社の協力を得ながら、計画的に啓発広報を実施する方策を検討する。
2 「障害者の日」をより有意義なものとするため、一般市民、ボランティア団体等の積極的な参加を求めるとともに、地方公共団体、障害者団体等の民間諸団体との連携の強化を図りながら啓発広報を進める。また、「人権週間」、「障害者雇用促進月間」、「精神保健普及運動」、「身体障害者福祉週間」、「精神薄弱福祉月間」等における啓発広報を更に一層推進する。これらの場合、関係者が集まるだけでなく、できるだけ幅広い人々が参加できるよう配慮する。
3 「住みよい福祉のまちづくり」事業等の地域ぐるみの活動は、地域における障害者問題に対する気運の高揚と「心の壁」の除去につながるものであり、引き続きその積極的な推進を図る。
4 「国連・障害者の十年」を記念した事業を実施し、国民の障害者問題に対する一層の理解を促進する。
2) 福祉教育の推進
1 障害者問題に対する国民の理解を促進するためには、幼少時からの啓発広報が重要である。このため、小、中学校等の学校教育において、例えば継続的な交流教育の推進を図る等により、障害者問題に対する理解を深める教育を積極的に推進する。
2 福祉講座や講演会の開催、ビデオテープ、映画、フィルム等のライブラリーの充実等により、社会一般の理解を深める措置を講ずるとともに、福祉事務所、更生相談所、児童相談所、保健所、精神保健センター等の福祉、保健サービスの実施機関と連携しながら、地域住民等の理解を深めるような啓発広報を展開する。
3) ボランティア活動の推進
障害者問題に対する理解を深めるために、地域住民等が各種のボランティア活動へ気軽にかつ積極的に参加することが重要である。また、障害者自身がボランティア活動をし、社会に貢献していくことも重要である。このため、学校教育、社会教育を始め、生涯学習の幅広い分野において、地域住民等のボランティア活動に対する理解を深め、その活動を支援するよう努めるとともに、企業等による社会貢献活動との連携にも配慮する。
教育・育成施策の推進に当たっては、心身障害児の成長のあらゆる段階において、一人一人の障害の特性等に応じた多様な教育・育成の展開を図ることにより、最も適切な教育・育成の場を確保するという基本的な視点に立ち、そのために必要な諸条件の整備に努める。
また、教育・育成施策の推進に当たっては、関係省庁が十分に連携して、教育・育成施策の効果的な実施を図るよう努める。
1) 心身障害児に対する教育施策の充実
心身障害児の教育については、その可能性を最大限に伸ばし、将来社会的に自立して生活していくことができるよう、その基礎・基本を習得させることが最大の目的であり、そのためには、心身障害児一人一人の障害の種類・程度、能力・適性等に応じて適切な教育を行うことが必要である。このような考え方の下、心身障害児に対する教育施策について、心身障害児の成長段階に応じて、次のような教育諸条件の整備を図る。
1 早期対応(早期教育・療育)の充実
ア 0才からの早期対応の充実を図る観点から、特殊教育諸学校の幼稚部等の一層の拡充整備を図るとともに、地域の幼稚園・保育所において受入れ可能な心身障害児については、その受入れの促進に努める。また、特殊教育諸学校や特殊学級等を置く小・中学校との連携協力等を図ることにより、幼稚園における早期教育の一層の充実を図る。
イ 心身障害児に対する早期対応においては、家庭の果たす役割が重要であることから、保護者に対する早期からの継続的な支援体制の整備について検討を行うとともに、特殊教育センター、特殊教育諸学校、特殊学級等を置く小・中学校、医療機関、心身障害児関係施設、児童相談所等において、心身障害児を持つ保護者が早期から教育相談や指導を受けることができるよう、その体制の整備を図る。
ウ 早期対応については、教育・医療・福祉等の分野における施策が一貫したシステムとして機能するよう、関係省庁が緊密な連携を図るとともに、地方公共団体のレベルにおいても、一層の連携協力を図るよう努める。
2 義務教育段階における心身障害児に対する多様な教育の充実
ア 通常の学級に在籍する軽度心身障害児に対する通級による指導について、その制度面の整備充実を図る。
イ 心身障害児に対する教育の形態に応じて、教育内容・方法の一層の改善、担当教職員の指導力の向上、心身障害児の教育に係る研究の充実等その一層の質的充実を図る。
ウ 学校教育全体で心身障害児を受けとめるという観点から、交流教育、教職員の人事交流等により特殊教育諸学校と小・中学校との連携を図る。
エ 心身障害児に対して、最も適切な教育の場を提供するため、就学指導の専門性の向上、市町村及び各学校内における就学指導体制の確立、それらを支える特殊教育センターの充実等、就学指導体制の整備を図るとともに、心身障害児一人一人の障害の特性等の変化に応じて教育措置の柔軟な対応を行うよう努める。
また、就学指導基準については、医療技術等社会情勢の変化に対応し、心身障害児に対して最も適切な教育の場を提供するという観点から、中・長期的に検討を進める。
オ 学習障害(LD)等軽度の障害児についての新たな課題、医療との関係等重度・重複障害児に対する教育の充実・改善の問題、聴覚障害児に対するコミュニケーション手段の在り方を始めそれぞれの障害の特性に応じた教育方法の工夫改善の問題に対しては、今後調査研究を推進し、その教育上の対応を検討する。
3 後期中等教育段階における特殊教育の充実
ア 義務教育終了後の心身障害児の進路については、その能力・適性や障害の状態等に応じて、特殊教育諸学校の高等部等への進学だけでなく、職業能力開発校、福祉施設、授産施設への入所、就職等多様な進路が用
意されることが基本である。心身障害児に対して義務教育終了後の多様な進路を用意するという観点から、各都道府県における養護学校高等部の整備・充実を図るとともに、高等学校において教育を受けることが可能な者については、国・公・私立高等学校のそれぞれにおいて、その受入れのための条件整備に努める。
イ 高等部における職業教育等については、作業所、企業等での現場実習及び社会福祉施設等での体験を重視する等、その教育内容の一層の充実を図る。そのため、職業教育、進路指導の充実とともに、各都道府県、学校と、公共職業安定所、公共職業能力開発施設、地域障害者職業センター、各企業等との連携を強化するよう努める。
4 教員及び関係職員の指導力の向上
ア 心身障害児に対する教育における教職員の役割の重要性にかんがみ、教職員の養成・現職研修の一層の充実を図る。
イ 心身障害児を学校全体で受けとめ、多様な教育を展開するという観点から、全ての教員が心身障害児について正しい理解と認識をもつようにするため、教員養成段階を含めた方策及び教員の人事配置の在り方について検討する。
5 高等教育段階における障害児(者)に対する施策の充実障害児(者)が、その能力・適性等に応じて高等教育へ進むための機会
を拡充するため、受験機会の確保、入学後におけるボランティア活動等による手話通訳・点訳等の支援体制の確立、必要な施設・設備の整備等につき一層の充実を図る。
6 学校教育終了後及び学校外における学習機会の充実
心身障害者の学校教育終了後における学習や学校外活動を支援するために、地域における学習の場の充実・確保、関連施設の整備等を図り、障害者が地域の人々とともに、地域における学習活動に参加しやすいよう配慮を行うとともに、そのための援助の在り方について検討する。
7 研究の推進及び情報の提供
国立特殊教育総合研究所、各大学、各都道府県の特殊教育センター等において様々な調査研究活動が行われているが、その成果については、情報にアクセスすることが困難であること等から、十分に活用されていない状況にある。このため、これら調査研究活動の一層の推進を図るとともに、特殊教育情報について、国立特殊教育総合研究所の機能の向上をはじめとして、特殊教育情報の蓄積、提供を行う体制を整備し、特殊教育情報の有効的な活用を図る。
2) 心身障害児に対する育成施策の充実
心身障害児の育成については、可能な限り家庭に生活の基盤をおきながら療育を行うという考えに立ちつつ、その成長の各段階において、心身障害児及びその家族のもつニーズに的確に対応した施策の展開を図る必要がある。
このため、児童のもつ心身障害をその可塑性の高い乳幼児期の間に早期に発見し、早期に療育することをまず第一義とし、学齢期にあっては、学校教育とともに、福祉施設等における治療と指導訓練を一層強化し、将来社会生活に参加できるようにするという基本的な考え方の下に、在宅対策及び施設対策の総合的な推進を図る。
1 地域における療育体制の整備
在宅対策、施設対策の両者を有機的関連の下に推進し、地域における療育体制の整備を図るため、次のように施策の推進を図る。
ア 各種障害児関係施設、心身障害児通園事業(デイサービス)、相談機関等を、地域の障害児がその必要に応じ利用できるよう、これら施設等の適正配置、施設等の間の連携等地域における療育体制の整備を進める。
特に、心身に障害がある幼児のための心身障害児通園事業(デイサービス)の整備を引き続き推進する。
イ 施設を活用して在宅療育等に関する相談、各種福祉サービスの提供の援助、調整を行う等、心身障害児及びその保護者に対する助言、指導体制の充実を図る。
ウ 施設のもつ機能を、入所児だけでなく広く地域社会の心身障害児が利用できるようにするため、ショートステイを始めとする心身障害児施設地域療育事業の拡充とその利用について啓発活動等を強化する。
2 福祉施設における療育機能の強化
心身障害児に対する児童福祉施設は、障害種類別による地域間格差はあるものの、既に量的な整備については一部の地域を除きほぼ需要に応じられる状態になっており、今後は、次のようにそれぞれの施設における児童の障害とその能力に応じた適切でより効果的な療育を行える質的な諸条件の整備を図る。
ア 心身障害の早期発見、早期療育に至る診断、療育を総合的に行う施設の整備に努めるとともに、重複障害に対応できるよう施設における療育機能の充実に努める。
イ 施設において適切な療育が行えるよう、療育方法の普及確立、必要な施設設備、職員の配置の改善等施設の療育機能の強化充実を図る。
ウ 施設職員を始め関係職員の養成、研修を充実する。
3 研究活動の推進
心身障害児の療育方法に関する国の心身障害教育研究を始め各種の研究活動の一層の推進を図るとともに、研究成果をより利用しやすいものとする方法について検討する。
障害者の雇用対策については、重度障害者に最大の重点を置き、障害者が可能な限り一般雇用に就くことができるよう、障害の特性に応じたきめ細かな障害種類別対策を総合的に講ずることを基本方針として、その雇用・就業の場の確保に向けて、着実かつ計画的に施策を推進する。さらに職業能力開発対策の充実等実効ある職業リハビリテーションの措置を講ずる。
また、一般雇用に就くことが困難な者については、雇用対策及び福祉対策の緊密な連携の下に各種授産施設の充実を図るとともに、自営業を含めた多様な就業形態での就業に対する援護措置の充実等に努める。
一方、障害者の職業的自立を図るため、「ノーマライゼーション」の理念の実現に向けて、社会一般の認識が深まるよう一層の啓発広報を進めるとともに、福祉、教育、生活環境面での諸条件を整えていく。このため、障害者の職業的自立のための施策が効率的に推進されるよう雇用、福祉及び教育を中心に関係省庁の緊密な連携を図るとともに、地域レベルにおいて住宅・交通手段の整備等きめ細かな対策を講ずるよう努める。
また、障害者の雇用を進める上で、事業主はもとより労働組合の果たす役割も大きく、障害者の働きやすい職場環境づくりに向けて、事業主が、労働組合その他の関係者の協力を得つつ、一体となって取り組んでいくことが重要であり、それら関係者の理解の促進に努める。加えて、現に雇用されている障害者については、その雇用の実情を踏まえ、雇用の継続を図るとともに、労働条件面を含む職業生活の質の向上が図られるよう、諸条件の整備に努める。
さらに、開発途上国に対して我が国の職業リハビリテーションを中心とした技術協力等を行い、これら諸国の障害者の就労促進に協力するとともに、先進諸国とは政策面での情報交換や相互交流を深める等わが国の国際的地位にふさわしい国際協力に努める。
なお、次のような検討を進める。
ア 個々の資格制度における取得要件や各種の試験制度における試験方法等について、障害者がその有する能力を十分に発揮できるよう、中長期的に検討を行う。
イ 障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)の重度身体障害者の範囲については、就職困難度を含めた職業能力の観点からその範囲の見直しを検討する。
ウ 難病者等についてはその就労に関する諸問題について調査・研究を行い、効果的な施策の在り方について検討する。
1) 障害種類別対策の推進
障害者全般の雇用状況については相当改善されてきているものの、なお両上肢障害者、視覚障害者、脳性マヒ者等の身体障害者、精神薄弱者及び精神障害者については、その雇用は必ずしも十分に改善されていない状況にあり、重複障害の場合も含め、次のように障害種類別の特性に応じたきめ細かな対策を講ずる。
1 身体障害者対策の推進
ア 身体障害者に対する雇用対策については、職域の拡大を図るためのME機器の開発等の調査研究及びその成果の普及を推進する。また、第3セクター方式による重度障害者雇用企業及び重度障害者多数雇用事業所の設置促進等、その雇用の拡大のための諸施策を一層推進する。同時に労働市場の動向に対応し、これら障害者の特性に応じた効果的な職業能力開発のための職業訓練を実施する。
イ 視覚障害者については、従来よりあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師の業務に従事している者が多いが、その就業の場が狭まっている等の事情にかんがみ、これら自営業等に就いている障害者についてその就業実態の把握に努め、必要な雇用・就業対策を講ずる。
ウ コミュニケーションを図る上で困難を有する視覚障害者、聴覚障害者等に対しては、コミュニケーションの円滑化を図るための人的援助その他の援助措置の充実を図る。
2 精神薄弱者対策の推進
ア 精神薄弱者の雇用の促進を図るため、今後とも障害者職業能力開発校における職業訓練、第3セクター方式による精神薄弱者能力開発センターの育成事業、企業における教育訓練の充実等各種対策を一層推進する。
また、精神薄弱者の職域の拡大と職場における定着を図るとともに、社会生活面でのニーズに対応するため、人的援助等のソフト面からの支援体制の整備を図る。
イ 精神薄弱者の雇用の円滑化のためには、企業において雇用関係に入る以前に学校教育又は社会福祉施設での指導・訓練において職業人として必要な基本的知識・技能・態度等を身につけるための現場実習が重要であるので、今後もその充実を図る。
ウ 授産施設と企業との連携による能力開発の充実等、精神薄弱者の特性に配慮した能力開発を推進する。
エ このような就労のための条件整備の進展に対応して、精神薄弱者に関する障害者雇用促進法の雇用率制度の在り方について検討する。
3 精神障害者対策の推進
ア 精神障害者の雇用の促進を図るため、勤務形態等の職能的諸条件や医療・福祉機関との連携の在り方等について検討を行い、雇用部門と福祉部門の連携を図りつつ、必要な施策の充実に努める。
イ 精神障害者の雇用は、他の障害者のそれに比べて、社会一般の理解が遅れていることにかんがみ、その啓発を推進するとともに、社会復帰施設の整備等社会復帰対策の充実、公共職業安定所におけるきめ細かな職業相談、職業指導を実施する体制の整備、生活面からの支援体制の充実等の条件整備を図る。
2) 重度障害者対策の推進
1 重度障害者の職業的自立の促進
ア 一般雇用に就くことが困難な重度障害者の数は増加しているところであるが、平成4年の障害者雇用促進法の改正により、重度障害者である短時間労働者については雇用率制度及び納付金制度の対象に加えられ、また、重度精神薄弱者については、雇用率制度及び納付金制度において重度身体障害者と同様の特例(1人を2人とみなして算定すること。)を適用することとなったところであり、本改正の内容について事業主に対し周知を図り、その雇用の促進及び職業の安定を図る。
イ 重度障害者については勤務形態において配慮を図ることがその雇用の促進に効果的であることから、短時間勤務、在宅勤務、フレックスタイム制等の多様な勤務形態の活用を図る。
ウ 重度障害者の適職の開発、職域の拡大については、これまでの自営業等も含めた各種の調査研究の成果を踏まえ、障害者の職業的自立を図るための施策を充実する。
エ 第3セクター方式による重度障害者雇用企業の育成、重度障害者多数雇用事業所の設置促進について推進してきたところであるが、今後も、これらの施策を充実強化する。また、重度障害者の就労の場の確保については、できる限り授産施設と一般雇用の場との間の流動性を持たせるよう、授産施設と企業との連携による能力開発の措置の充実等を図るとともに、授産施設の柔軟な制度運営を促進することにより、一般雇用への就労の確保に努める。
オ 重度障害者に対し、生活に密着した地域レベルにおいて、雇用部門と福祉部門さらには教育部門が緊密な連携、協力を図りつつきめ細かな職業リハビリテーションを実施する。また、障害者が働きやすい施設・設備等の職場環境や通勤・住宅等の障害者の職業生活にかかわる社会環境を整備すること等により、障害者の職業的自立を進めることが重要であり、そのための支援策を強化する。
2 一般雇用が困難な者に対する施策の推進
授産施設及び福祉工場の計画的整備、適切な施設利用の確保、職住分離、生産性の向上等により、一般雇用が困難な者に対する施策の一層の充実を図る。また、作業型デイサービス等の作業施設に対する助成を充実するとともに、雇用部門及び福祉部門の連携を図りつつ、自営業に就く者に対する援護措置の充実方策を検討するほか、重度障害者多数雇用事業所の敷地内において重度障害者に就労の場を提供しつつその能力の開発を進める試みが行われている実態等を踏まえ、多様な就労の場の確保に努める。
3 高齢化への対応
今後、働く障害者の高齢化の進展が見込まれるが、高齢化によってその職業能力の低下が懸念される重度障害者については、高齢化した重度障害者のニーズに応じた勤務形態や退職後の生活の場の在り方等について検討
3) 職業リハビリテーション対策の推進
1 職業リハビリテーションの推進
ア 平成3年に開所された「障害者職業総合センター」において、職業リハビリテーションについての高度かつ先駆的な調査研究を行うとともに、職業リハビリテーションに従事する専門の職員を養成する。また、地域の民間企業を活用し、職業的自立に必要となる生活指導から技能指導を含む総合的・具体的な障害者の職域開発のための援助を行う職域開発援助事業が障害者の職業的自立にあたって効果的であると考えられることから、その拡大実施を行う。
イ 精神薄弱者については、今後とも障害者職業能力開発校における職業訓練の充実等職業リハビリテーションのための対策を推進する。
ウ 精神障害者に関する訓練技法等の調査研究を引き続き実施し、その成果を踏まえ、施策を充実するとともに、一般の職業能力開発校における精神障害回復者等(精神分裂病、そううつ病又はてんかんにかかっている者であって症状が安定しているものをいう。)に対する職業訓練についてもその充実を図る。
エ 障害の重度化等に伴い、職業リハビリテーションにおいては高度かつきめ細かなサービスが求められているところであり、職業リハビリテーションに係る実践的研究及びその成果の普及の一層の促進に努めるとともに、就労のための基盤整備に資する就労支援機器の開発とその普及促進のための施策の充実を図る。
オ 職業リハビリテーションの有効な実施に当たっては、地域レベルでの職業リハビリテーションの実施体制を充実するとともに、特に雇用と福祉を中心とした関係機関のネットワークづくりを行う等きめ細かな職業リハビリテーションが実施可能な体制整備を図る。また、企業等が行う職業能力開発の機会の提供についても援助する。
2 専門職員の養成・確保
職業リハビリテーションに携わる専門職員については、これまでもその養成・確保に努めてきているところであるが、障害種類別対策をさらにきめ細かく講ずるために、引き続きその養成・確保に努めるとともに、その拡充を図る。
障害の原因究明のための各種研究の推進を図り、その成果を生かした発生予防、早期発見、早期治療、根本的治療のための各種対策の一層の充実を図る必要がある。また、障害を軽減し自立を促進するためには、リハビリテーション医療が重要な役割を果たしており、その一層の推進を図る必要がある。
このほか、保健・医療の分野における施策の充実に当たっては、次の点に留意する。
ア 障害者に対するリハビリテーションについては、単に運動機能の回復のニーズに対応するだけではなく、障害者の自立自助を援助し、全人間的復権を目指す医学的、心理学的及び社会的な総合的対応として、全ライフステージにおいて、それぞれの時期における異なるニーズに対応する必要があること。
また、地域に密着したリハビリテーションの実施体制を一層充実させるこ と。
イ 障害を受けた初期の段階で、本人及び家族に対して障害軽減に係る各種のサービスの紹介、精神的な支援等を行う相談指導体制の充実を図ること。
ウ 保健、医療、福祉の各般の施策について有機的連携を図ること。特に、近年、合併症を有する障害者、内部障害者等定期的な医学的管理を必要とする障害者が増加する傾向にあることから、こうした状況に適切に対応していくためにも、これら施策の有機的連携を図ること。
1) 心身障害の発生予防、早期発見及び研究の推進
心身障害の発生予防、早期発見及び研究の推進は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 障害の発生を予防し、根本的治療法等を確立するため、心身障害、精神・神経疾患研究等の研究を一層推進する。特に精神障害、難病等原因究明が十分進んでいない分野については、重点的に研究の推進を図る。
2 障害の発生予防、早期発見のために、妊産婦に対する健康教育、健康診査等の保健対策、先天性代謝異常等検査、乳幼児健康診査等、母子保健対策、老人保健法に基づく脳血管障害等成人病予防のための健康診査、健康教育や脳卒中情報システムの整備等各種の健康・保健対策について、その一層の充実を図る。
また、精神障害については、地域における精神保健相談、訪問指導、社会復帰に対する支援、心の健康づくり等の地域精神保健対策を一層推進する。
3 障害の発生を予防するため、周産期医療体制の一層の充実を図る。
4 小児期の事故予防対策や各種の疾病予防対策、交通安全、労働災害防止等の安全対策を一層推進する。また、スポーツ事故による障害が生じている現状にかんがみ、スポーツに係る安全対策を一層推進する。
5 原因疾患等の早期発見から早期治療・リハビリテーション医療、早期療育や各種の福祉施策への誘導が適切になされていくよう、本人及び家族に対する各種サービスに係る相談指導体制や精神的な支援体制の充実、保健、医療、福祉の各般の施策の有機的な連携を図る。
6 障害者の体力づくりと健康増進について研究を進める。
2) 医療・リハビリテーション医療の充実
医療・リハビリテーション医療の充実は、障害の軽減を図り、障害者の自立を促進するために不可欠である。
医療・リハビリテーション医療の充実は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 医学の進歩、疾病構造の変化等に即応して各種医療機関におけるリハビリテーション医療実施体制の整備、リハビリテーション医療に対する適切な評価等を行う。
2 障害に伴う二次障害の発生予防等のため、定期的な医学管理を必要とする障害者が増加することに対応し、また、障害者が身体的特性のために受診が困難なケースに対応するために、障害者の健康管理、医療の充実を図るための各般の施策を推進する。
3 近年、CAPD(連続携行式自己腹膜透析療法)等、在宅医療技術の開発・普及が進んでおり、在宅において必要な医療が受けられるような体制整備を図る。
4 障害者自身や家族等の関係者に対して合併症や日常生活における留意事項等必要な知識の普及を図る。
3) 精神保健対策の推進
精神保健対策としては、精神障害者の人権に配慮した医療を確保するとともに、社会復帰対策及び地域精神保健対策を推進していくことが重要である。
精神保健対策の推進は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 精神障害者に対し適切な医療の機会が提供できるよう、精神科における救急医療体制、重症な入院患者や身体合併症を有する者等に対する医療体制を確立するとともに、リハビリテーション医療を推進する。
2 医療法に基づく各都道府県の医療計画において設定される二次医療圏を単位として社会復帰施設の整備を図る等社会復帰対策を一層推進するとともに、社会復帰施設の運営に関し、他の障害者福祉施設と同様に整備が推進される方策を講ずる。また、社会復帰対策における市町村の役割について検討する。
3 国民の精神的健康の保持・増進を図り、併せて精神障害者の社会復帰を促進するため、保健所、精神保健センター等において精神保健相談の充実、社会復帰に対する支援等地域精神保健対策を一層推進する。
4 思春期、老年期等のライフステージに応じたきめ細かい精神保健対策を推進する。特に、人口の高齢化等を踏まえ、老人性痴呆疾患治療病棟、老人性痴呆疾患療養病棟及び老人性痴呆疾患センターの整備を促進する。
4) 専門従事者の確保
保健・医療対策の推進にあたっては、専門的技術を有する質の高いマンパワーの確保が不可欠であり、その計画的育成を図っていくことが必要である。
このため、理学療法士、作業療法士等の専門従事者の計画的育成を推進するとともに、医療ソーシャルワーカー、言語聴覚療法技術者、臨床心理技術者等保健・医療・福祉分野の専門従事者の資格制度の整備を推進する。また、医学教育及び医師の卒後研修におけるリハビリテーション医学の教育の充実を図る。
障害者に対する福祉施策全般について、障害者の生活の質の向上を図るという観点からその充実に努めていくことが必要であり、その際、次の点に重点を置く必要がある。
ア 障害者の特性やニーズに応じて介護や特別な処遇を行う等の必要な施策を充実すること。
イ 障害者の自立や社会参加促進に必要な施策を充実すること。こうした施策の実施に当たっては、当事者である障害者自身の選択の幅を広げる等障害者本人の立場に立った施策の展開に努めること。
ウ 障害者自身の家族形成、家族介助者への援助等障害者の家庭に対する援助施策を充実すること。
また、障害者にとって住みやすい街づくりを進めていくことが大変重要であり、この街づくりに際しては、次の点に留意する。
ア 市町村における実施体制、財政力の充実を図り、これを支援すること。
イ 地域住民の理解と参加を得る等地域に密着した施策とすること。
ウ 全国すべての市町村が街づくりに取り組むよう、要綱、目標、ガイドライン等により国がその促進を図っていくこと。
エ 聴覚障害者のコミュニケーション確保等最低限必要とされるシビルミニマムが、全国あらゆる地域で確保されるような基準づくりが必要であること。
オ 「社会連帯」の思想に基づいた新しいコミュニティの形成が不可欠であること。
また、こうした動きに合わせて、従来より中央児童福祉審議会において指摘されている福祉エリアの構築の推進を図る。
1) 生活安定のための施策の充実
障害基礎年金等の年金、特別障害者手当等の各種手当は、障害者の生活を保障し、経済的自立を図る上で大きな役割を果たしており、その充実を図ることは大変重要である。このため、障害者に対する年金の給付額等の充実を図るとともに、特別障害者手当、障害児福祉手当等各種手当についてもその充実を図る。
2) 福祉サービスの充実
障害者が社会生活を送る上での基本的な生活ニーズに対応するため、障害に応じた各種の福祉サービスの提供を確保する。特に、ノーマライゼーションの理念の具現化という観点からは、在宅福祉サービスの一層の充実を図る。
また、精神障害者に対する福祉サービスについては、精神保健法の改正により社会復帰施設の整備等が進んでいるところであるが、今後とも各種施策の一層の充実を図る。
福祉サービスの充実は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 在宅対策の推進
ア 障害者の在宅福祉サービス、特に、在宅の重度障害者等介護を要する障害者に対するホームヘルプサービス事業、家族の介護負担を軽減するショートステイ事業等の各種の在宅介護事業の充実を図る。
イ 障害者の自立と社会参加を進めるために授産事業、デイサービス事業、視覚障害者に対するガイドヘルパー事業等の充実、身体障害者社会参加促進センター、身体障害者自立支援事業等の各種施策・事業の充実を図るとともに、地域における障害者の自立を支援する体制の整備を推進する。
ウ ホームヘルパー等の在宅福祉サービス事業の従事者の充実を図るため、その養成研修の充実を図る。
エ 在宅の精神障害者に対しては、通所型施設の整備に加え、グループホーム等生活の自立を支援するための事業等の充実を図る。
オ 精神薄弱者に対しては、グループホーム事業や生活支援事業の推進等地域で生活する上で必要な支援を一層充実することによって、その就労や自立した地域生活への援助を図るとともに、精神薄弱者の障害の程度や特性に応じた望ましい処遇の在り方の研究を推進する。
2 施設対策の推進
ア 多種にわたる施設の種類を統合整理し、障害の特性や障害者のニーズに応じた施設体系を確立し、各地域で利用しやすい施設の整備を進める。
特に、授産施設等の通所施設やデイサービスセンター、福祉ホーム等の地域における利用施設の整備・充実を図る。
イ 施設の運営に当たっては、リハビリテーションの充実、利用者の生活の質の向上を図るとともに、施設の専門的諸機能の地域社会への開放を図ることにより、ノーマライゼーション推進の観点をも踏まえた適正な運営が行われるよう努める。
ウ 地域の既存の公共施設を障害者の作業訓練、レクリエーション等の地域における利用施設として活用することを検討する。
エ 総合リハビリテーションセンター、総合療育センターや医療から職業までの一貫したリハビリテーションを実現するための施設の広域的整備を図り、福祉部門、雇用部門及び教育部門の連携を図る。
オ 精神障害者に対しては、他の福祉施設との均衡にも配慮しつつ、援護寮、福祉ホーム等社会復帰施設の整備を促進する。
3 障害者団体の活性化及び専門職員等の養成
ア 障害者団体の相談指導事業等各種事業の活性化に努める。
イ 身体障害者相談員等の相談員は、障害を負った初期の段階において本人及び家族の精神的な支えとなる等重要な役割を果しており、その活動の活性化に努める。
ウ 精神障害者及び精神薄弱者の当事者としての活動の活性化に努める。
エ 社会福祉士、介護福祉士等の養成を推進する。
オ 医療ソーシャル・ワーカー、臨床心理技術者等保健、医療、福祉分野の専門従事者の資格制度の整備を推進する。
カ 点訳奉仕員、専門的知識を有するテクニカル・ボランティア等のボランティアの養成・確保、口話の専門家、歩行、日常生活行動等の訓練にあたる専門家の養成を進めるとともに、その資格化について検討を行う。
キ 専門職員が働きがいを持てるような方策を検討するとともに、手話通訳者に多発している頸肩腕の障害に対する対策を講ずる。
4 権利擁護のための制度
精神薄弱者等自己の意思表示の困難な障害者に係る権利擁護のための制度の在り方について検討を進める。
5 障害による資格制限の見直し
精神障害、視聴覚障害等障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう、必要な見直しについて検討を行う。
3) 福祉機器の研究開発・普及
福祉機器は、障害者の自立、社会参加の可能性を高めるとともに、介護者の介護の労力の軽減にも資するものであり、積極的な研究開発を進める。研究開発は、障害者のニーズや介護者のニーズに対応するとともに、障害者の生活の質を高めるとの観点から行う必要がある。
福祉機器の研究開発・普及は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 国立研究機関等における研究開発体制の整備と研究開発の推進を図るとともに、民間事業者等が行う研究開発に対する助成を進める。また、開発された福祉機器の試験評価体制を整備し、試験評価とその標準化も併せて推進する。
2 福祉機器の普及を一層進めるために、関係機関における専門職員の確保、相談担当職員等の研修、重度障害者による福祉機器の活用事例の紹介等を行う。また、補装具や日常生活用具として障害者のニーズに応じた機器の給付が適切に行われるよう努めるとともに、優良機器の普及を促進する方策について検討を進める。
3 障害者への福祉機器に関する情報の提供を推進するために、福祉機器に関する展示・相談窓口の整備、福祉機器情報のネットワーク化等を進める。
4 福祉機器の開発について、関係省庁相互の連携強化を図り、より効率的な開発普及を推進する。
建築物、道路、交通ターミナル等における物理的な障害の除去、情報収集、コミュニケーションに当たってのハンディキャップの軽減を図ること等の生活環境面における各種の改善は、障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するための基礎的な条件であり、一層の改善を図ることが必要である。こうした生活環境面での改善の推進は、政府、地方公共団体、民間事業者、国民が一体となって取り組むべき課題である。
障害者の利用に配慮した各種の施設・設備の整備等障害者に対する各種の措置が普遍的に講じられていくためには、これらの措置が障害者のための特別な措置として講ぜられることは適当ではなく、一般的な措置がそもそも障害者に対する配慮を前提として行われる必要がある。こうした基本原則ではどうしても対応できない場合に限って、障害者に対する特別な措置として講ぜられる必要がある。
また、障害者の利用に配慮した施設整備等障害者に対する各種措置の実施に当たっては、ハード面での整備に加えて、民間事業者を含めた国民全体がその必要性に対する理解を深め、社会的に支持し、協力することが非常に重要である。こうしたソフト面での改善は、ハード面での整備を補うだけでなく、ハード面での整備を進めていくための基盤でもある。このため、学校教育における青少年期からの意識の啓発、一般市民に対する啓発広報活動への積極的取組等により、市民意識の高揚を図ることが必要である。
さらに、障害者に対する各種施策相互の調和を図り、総合的に見て障害者が住みよい社会の実現を図っていく必要がある。例えば、今後の福祉行政の担い手である各市町村における障害者の住みよい街づくりを行う事業等の推進を図るとともに、特定の地域を選び、建築物、道路、交通ターミナル等にわたる総合的なモデル街づくりの実施についても検討を行う必要がある。
現実問題として、障害者の利用に配慮した施設・設備の整備等生活環境面での改善を進めることは、民間事業者にとって負担増の要因となっており、こうした負担増を民間事業者だけで負担することには実際上の困難がある。このことが障害者の利用に配慮した各種の施設・設備の整備等が進まない主要な原因となっていると考えられる。他方、こうした整備等を国・地方公共団体の補助金のみで賄うことは、その財政上の制約から、限定的な福祉的措置とならざるを得ず、その普遍的な整備等を図っていくことは困難である。このため、こうした費用は、社会全体で負担することが必要であり、民間事業者、国民一般が社会連帯の意識に基づき負担していくようその啓発に努めるとともに、これら事業を支援するため、補助金、融資等における必要な措置について検討を行う必要がある。
1) 建築物の構造の改善
建築物における物理的な障害の除去等の障害者の利用に対する配慮は、障害者の自立と社会参加を促進する上で不可欠である。ノーマライゼーション理念の具現化のためには、障害者の利用を十分可能とするという方針に基づ いて施策を進めていくことが必要である。
建築物の構造の改善は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 障害者の利用に配慮した建築物の整備を積極的・効果的に推進していくために、できる限り法律又は条例によりその実施を担保するよう努める。
2 国又は地方公共団体の設置する建築物については、障害者の利用に対する配慮を行うことを原則とする。
3 不特定多数の人々が利用する建築物で新築されるものについては、障害者に対する配慮を積極的に進める。このため、地方公共団体における条例の制定等の取組の状況を踏まえつつ、建築物の整備に当たっての基準を整備する。この基準達成のために各種の誘導施策を実施するとともに、その基準達成のための指導体制を確保する。
4 既存の建築物については、障害者の利用頻度等を勘案して、適宜目標又は計画を立て、順次改善を進めていく方策を検討する。
5 基準の整備を進めていくに当たっては、次の点に留意する。
ア 基準の策定に当たっては、最低レベル、標準レベル、優良レベル等多様なレベルを設定すること。
イ これらの基準に基づいた整備を担保する手段についても、それぞれのレベルに応じて、法的に行うべきもの、指針で推奨するもの、また、全国的に統一すべきもの、地域ごとに定めるべきもの等多様に対応すること。
ウ 各省庁や地方公共団体がそれぞれ独自に決めている基準のうち、統一する必要があるものについては、できるだけ統一すること。
エ 地域の実情の変化等を踏まえ、必要に応じ基準の見直しを行うこと。
オ 基準の作成及び見直しに当たっては、障害者団体を始めとする関係各方面の意見聴取を行うこと。
6 基準に従った建築物の整備推進のため、具体的、効果的措置を講ずる。
2) 住宅整備の推進
ノーマライゼーションの理念を具現化し、障害者が地域で生活していくためには、障害者の住宅が適切に確保されることが必要であり、住宅確保のための施策の充実が必要である。
住宅整備の推進は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 身体障害者を始め、精神薄弱者、精神障害者の障害種類別の特性やニーズに応じた障害者向け公的住宅の整備を促進するとともに、障害者の身体的特性等に対応させるための住宅改造に対する融資等の助成制度を活用する等、障害者の住宅確保対策を推進する。
2 障害者が生活する世帯に対する近隣住民の理解、協力を得る等地域社会との融合に配慮した障害者向け住宅の整備の推進や住宅に関する相談体制の充実を図る。この場合、住と職が同じとなる自営業者等にも配慮する。
3) 移動・交通対策の推進
障害者の社会参加の機会増大や行動範囲の拡大に伴い、障害者の移動におけるハンディキャップの軽減を図ることが重要な課題となっている。
なお、移動・交通に係る経費負担については、一般利用者との均衡等を勘案しつつ、必要な軽減措置が講ぜられてきたところであり、今後とも引き続き配慮する必要がある。
移動・交通対策の推進は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 新築又は大規模に改築される公共交通ターミナルについては、従来より、エレベーター、エスカレーターの設置等障害者の利用に対する配慮が行われてきたところである。既存施設については、エレベーター設置のために土地の買収等を必要とするケースが多いことから、その改善が困難な状況にある。また、リフト付きバスについても、バス運行事業そのものの経営状況が良くないという事情がある。しかし、こうした施設やバスの運行についても、障害者の利用を拡大するとの観点から、計画的に整備・改善を進めなければならない。このため、地域の交通実態、障害者の利用の状況、交通事業者の経営実態、施設・設備の整備に当たっての構造上の問題等を
総合的に勘案し、施設整備や障害者の交通手段確保に当たっての達成可能な目標を定め、これに従って計画的かつ効果的に整備を進めていく具体的な方策について検討を進める。
2 障害者に配慮した交通ターミナルにおけるガイドラインについて、適切な見直しを行う。その際、視聴覚障害者の安全確保や音声による誘導等に十分配慮するとともに、バスにおける障害者に対する配慮等に努める。また、各省庁や地方公共団体において独自に定めているガイドラインについて、必要に応じ統一化を図る。
3 交通ターミナルにおける障害者、特に視聴覚障害者に対する適切な情報提供、駅員による適切な対応や介護体制の充実等障害者の利用を容易にするソフト面での配慮を一層充実させる。
4 道路については、幅の広い歩道等の整備、歩道等の段差の適切な切り下げ、利用しやすい立体横断施設の整備、視覚障害者誘導用ブロックの敷設を進めるとともに、視覚障害者誘導用ブロック上への自転車放置の防止、電線類の地中化等障害者が安全で快適に歩行できる空間の確保に努める。
また、信号機への視覚障害者用付加装置の整備等交通安全施設における障害者の利用に対する配慮を一層進める。
5 改造自動車購入の援助、ガイドヘルパー等各種の移動・交通手段サービスの普及・充実に努める。
6 都市における障害者等の快適かつ安全な移動を確保するため、街区内におけるエレベーター、スロープ、動く通路等の移動システムの整備及びこれと連携した利用しやすい立体横断施設や幅の広い歩道の整備等の関連道路事業を推進する。
7 障害者が安心して移動するためには、例えば交通ターミナル等の利用者が障害者に対し進んで必要な援助を行う等、社会全体の理解と協力が重要であり、そうした環境づくりを推進する。
4) 情報提供の充実
障害者、特に視聴覚障害者は、その障害により情報の収集、コミュニケーション確保に大きなハンディキャップがある。的確かつ十分な情報の収集やコミュニケーションの確保は、障害者の能力を生かし、自立と社会参加を促進するために不可欠である。
情報提供の充実は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 放送事業者の協力も得て、文字多重放送、音声多重放送の活用等視聴覚障害者に配慮した放送番組の一層の充実を図る。また、点字図書、字幕付きビデオ等視聴覚障害者に対する情報提供サービスの充実を図る。
2 選挙における基本的な権利行使に当たり障害者の特性に配慮した十分な情報提供が行われるよう配慮するとともに、病院での治療等命にかかわる場合における手話通訳の派遣を充実すること等により、最低限必要なコミュニケーションを確保するための各種措置を講ずる。また、公共サービスにおいて点字、録音物等による広報を行い、窓口で手話ができる職員を育成する等障害者への配慮を行う。
3 障害によるハンディキャップを克服する手段として情報処理・情報通信機器の開発を一層推進する。
4 聴覚障害者に対する電話伝達サービスの実施の在り方について検討するとともに、聴覚障害者用の字幕ビデオ作成に係る著作権の運用改善を図る。
5 精神薄弱者にも分かりやすい情報提供の在り方について検討を進める。
6 情報収集、コミュニケーションの確保に係る費用負担については、一般利用者との均衡等に配慮しつつ、その軽減について検討する。
5) 防犯・防災対策の推進
障害者が安心して在宅生活や社会生活を送るためには、防犯対策や防災対策が適切に講じられていることが必要であり、特に、災害情報等の情報の伝達や、災害発生時における迅速な避難誘導が適切に行われるような措置を講ずることが重要である。
防犯・防災対策の推進は、次のような基本的方針に沿って行う。
1 住民による自主防災組織の形成及び協力体制の確立等、地域における住民、消防署、警察署等による防犯・防災ネットワークの確立に努め、障害者に対する防犯・防災知識の普及及び災害時・事故時における障害者への援助に関する知識の普及に努める。
2 緊急通報システム、ファックスによる障害者から消防、警察等への緊急通信体制の一層の充実を図るとともに、障害者に対する災害時・緊急時の情報伝達、避難誘導方策の在り方について検討を進める。
3 障害者の生活施設や障害者が居住する住宅等における障害者の特性に配慮した防災設備の整備・充実、犯罪や事故の発生を警戒・防止するための民間の防犯システムの普及を図る。
スポーツ、レクリエーション及び文化活動への参加機会の確保は、障害者の社会参加の促進にとって重要であるだけでなく、啓発広報活動としても重要である。また、これら活動は、障害者の生活を豊かにするものであり、積極的に振興を図ることが必要である。特に、スポーツについては、障害者の健康増進という視点からも有意義である。
スポーツ、レクリエーション及び文化活動の振興に当たっては、次の点に留意する。
ア 地域においてスポーツ、レクリエーション及び文化活動に参加することができる施設の整備を進めるとともに、その質的充実を図ること。
イ 障害者のスポーツ、レクリエーション及び文化活動を適切に指導できる指導員、審判員等の人材養成を図ること。
ウ 自分の記録に挑んだり、技を競い合う競技スポーツと同時に、レクリエーションや交流を楽しめるようなスポーツを積極的に振興すること。また、スポーツやレクリエーション活動を実施するに当たっては、障害の種類を越え た連帯を図るよう配慮するとともに、障害を持たない者と共に参加する機会 の確保に努めること。
エ 啓発広報につながる展覧会等の開催をを積極的に支援すること。また、障害者だけでなく、一般市民も加わった芸術祭活動等障害の種類や有無にこだわらない全国民的な文化活動の振興を図ること。なお、障害者の文化活動を援助していく具体的な方策を検討すること。
我が国は、国際社会の一員として、障害者問題の分野においても積極的に国際協力を推進していくことが必要である。特に、1993年から10年間は「アジア太平洋障害者の十年」であり、障害者団体間の交流、政府や民間団体による各種協力の実施等によるこれら地域への協力に重点を置くべきである。また、リハビリテーション・インターナショナル(RI)、障害者インターナショナル(DPI)、世界ろう連盟(WFD)、世界盲人連合(WBU)等民間団体間においても国際交流が進められているところであり、今後とも一層その推進を図る必要がある。
福祉、保健医療、教育、雇用等の各分野において、我が国のもつ技術等を発展途上国を中心とする諸外国に提供する等の国際協力を推進することにより、これら諸国における障害者施策の推進に貢献するとともに、先進諸国との間で、共同研究、政策面での情報交換や相互交流を進める等我が国の国際的地位にふさわしい国際協力に努める必要がある。
国際協力の推進に当たっては、次の点に留意する。
ア 国際協力を一層推進するため、我が国の取組の在り方を検討すること。
イ ネットワークづくりや推進体制の整備により、リハビリテーション技術の交流、情報の交換、技術指導者の養成等の国際協力を一層推進すること。特 に、アジア太平洋地域における国際協力に積極的に取り組むこと。
ウ 国際協力に当たっては、相手国の実態やニーズを十分把握するとともに、 援助を受ける国の文化を尊重し、その国のニーズに応じ柔軟に対応すること。
エ 国連や各種の国際的な非政府機関を中心として、障害者問題についての行動計画やガイドラインの作成等の取組が行われているが、こうした取組に積 極的に参加すること。
オ 我が国の国内施策を積極的に諸外国へ紹介するとともに、各国の施策の現状に関する情報の収集、提供等に努めること。
カ 障害者による国際交流を支援すること。
1 障害者対策は、福祉、保健医療、教育、雇用、生活環境等広範な分野にわたっている。したがって、新長期計画の推進に当たっては、障害者対策推進本部を軸とし、関係行政機関相互間の密接な連携を図り、障害者対策の総合的かつ効果的な実施を図る。また、障害者対策の立案及び推進に当たっては、障害者自身の意見を反映させ、そのニーズに十分配慮するよう努めるとともに、地方公共団体、障害者関係団体等民間諸団体との連携をさらに深める。
また、政府は、地方公共団体の障害者対策に関する適切な行政水準を確保する等の観点から、財政面の充実等を支援するよう努めるとともに、ガイドライン・基準、優良事例等を示すことにより、地方公共団体の支援に努める。
2 地方公共団体における障害者対策の推進に当たっては、地方心身障害者対策協議会等の組織を活用し、障害者自身の参加を図ること等により、長期的な計画の下に、障害者の意見を反映した総合的かつ体系的な施策の推進を図っていくことを期待する。
特に市町村は、身近な地方公共団体として、今後その役割が重要になると考えられるので、組織の整備、職員の資質の向上、財政面の充実を図ること等により、障害者対策に主体的かつ積極的に取り組むことを期待する。
なお、都道府県が市町村に対する財政面等における適切な支援を行い、連携の強化に努めることを期待する。
3 障害者関係団体等民間諸団体、企業、労働組合、マスメディア、障害者を含む社会の全ての構成員が、それぞれの分野で積極的に行動し、障害者福祉の向上のために寄与することを期待する。